不登校支援のための勉強会 第四回記録

第四回 不登校支援のための勉強会

2018/12/20
於 日大文理学部

テーマ 教育相談を知る~スクールカウンセラーの立場から~
講師 臨床心理士 佐竹 由利子先生

1 自己紹介

私は、この臨床心理の現場に40年以上。

病院臨床から始まって子どもの施設、学生相談室、開業相談室、そして小中学校のスクールカウンセラーとして14年間やってきた。今は看護学校で、心理学、家族学、家族関係論を教えている。

なぜ私が当時マイナーな心理職を選んだかを話す。

その当時、学校が大嫌いで今で言う登校しぶりだった。なぜかというと集団行動が嫌いだったからだ。

当時45人学級で満員電車のようで、先生たちは規律を守らせなくてはならない、そのぴりぴりした感じが嫌いだった。

ところが5、6年の先生は、おおらかで雪の日に外で自由に遊ばせてくれたりして、学校が大好きになった。

そのころ不登校の子が5、6人くらいいた。ちょうど高度成長の時代、格差ができはじめた頃で、取り残された子どもたちがいた。

先生に言われて、そういう子の家にプリントを届けに行くことになった。一番印象的なのは、いじめられている子でみなりが汚い子がいて、みんなにからかわれていた。

家に行くと、暗い家の中に母親が寝ていた。その時の印象が強烈だった。

いじめられている子の厳しい現実、背景に圧倒された。この体験そういうことから小学校のSCになりたいと思い、今の職業を選んだ。

2 スクールカウンセラーの活動実態

 平成28年度、東京の公立学校のSCは1333人。

3 スクールカウンセラーの業務 レジュメ参考

実際の活動例は

・相談室内での活動

  1. 児童・生徒へのカウンセリング…学校によっては多いときは15例を一日に見ることもある。
  2. 児童・生徒についての保護者への教育相談
  3. 相談室登校児童・生徒への対応…不登校の子どもが相談室登校すると出席になるので、それなら学校に行こうということになる。これが結構人数がいる。
  4. 休み時間・放課後の来室者への対応…これは大事で、「ケンカしちゃった」など言って休み時間にやってくる。
  5. 全員面接…200人もいる学校もある。

・相談室外での活動

  1. 授業、休み時間などでの学校での活動中の行動観察…保護者からの相談があったとき、先生からの相談があったときその子を知らないと相談に乗れないので、見ている。
  2. 投書箱への投書の対応…返事をもって子どもに渡しに行ってカウンセラーだと言うと、「やっぱりね。他の先生と違う感じがした」などと言うのでこれも大事。
  3. 相談室便りなどの発信
  4. 教職員へのコンサルテーション・協働…先生からいろいろ相談がある。
  5. 校内会議への参加…生徒談部会、事例検討会、いじめ防止委員会等々いろいろある。
  6. 関連機関との連携…学校に行く日に会議が組まれるが、子どもは会議より話を聞いて欲しい。
  7. 教員研修、PTA活動などの講師

一日で終われないほど仕事がある。SCにもよるが、やろうと思ったらこれだけ仕事がある。

4 不登校生徒への理解

 不登校児童生徒は13万人いる。大事なのは、ひとりひとりに背景があるということ。ひとりひとりに現実があり、その子の将来があるということ。

5 児童・生徒のこころ

カウンセラーは子どものこころをどういう風にみていくか。問題の現れは、一つは体の痛みや不安感として出てくる。

例えば腹痛、頭痛、過食、めまい、吐き気、ぜんそく、起立性調節障がい。これは内科・小児科にかけると本当に甲状腺の病気などになっている場合もある。身体とメンタルな問題は連動して起こっていること多い。

次は行動化。悩みや葛藤が抱えきれなくなると、子どもは、暴言や暴力、ルール破り、いじめ、非行、自傷行為などの行動に表す。これが問題行動となり、場合によっては怠学や不登校になる。

学校の先生は非行・問題行動と捉えるが、非行仲間の中にもいじめがあったり複雑だ。しかし非行傾向の子どもに対して相談機関(適応指導教室)は冷たい。他の子によくない影響があると言われてしまう。その場合、担任の先生に見て欲しいとお願いした。先生が見てくれると教室戻れる率が高い。それと内閉化…自分の中に閉じこもり、ゲームやファンタジー、白昼夢への没頭、ひきこもりで、不登校になる。

これらはみなつながっている。どこが重たいかという問題。背景には身体的な問題、発達の問題、貧困、虐待などがあるかもしれない。親が病気の場合もある。いろいろな可能性を考えて、その子の病態はどれくらいか、強みはどれくらいか、といろいろな事を見ていく。

6 架空事例1 詳細省略

まずは、電話で相談。

玄関まで家庭訪問。

5分だけ会おうというと会ってくれる。次は10分となる。

次は並んで歩けるようになる。対面しないで並ぶのがいい。

だんだん学校に近づく。相談室に行く、というような行動療法的アプローチ。

先生と綿密に連携して、先生に様子を話して、先生と5分だけ会う。

先生とつながれると、やがて給食をクラスの誰かと一緒に食べるようになる。

教室に通えるようになる。

SCは校内で見ている。向こうから声はかけられないが目で合図を送る。

辛いときは相談室に来る。

7 不登校生徒のこころ  レジュメ参照

子どもの社会に出てこうとする力は強い。

不登校の子どもは、家でのうのうとしているのではなく、負い目を持っている。

ステップアップの場所は学校でなくてもいいがいきなり社会に出られない。

8 不登校の背景

一つは本人要因(情緒的問題、対人緊張など)、学校要因(友人関係、いじめ等)、家庭要因(虐待、親子関係等)、社会環境の要因もある。

社会環境とは、商店街の学校、ビル群の中の学校で特徴が異なるもある。

それからLGBT(性別違和)などもある。

スカートをはいたことのない子が制服でスカートをはくことに違和感がある。

おのずと社会・文化の影響を受けている。

9 架空事例2

不登校の原因はあまり深く聞かない。

本人もわからない事が多い。

何を食べたか、どこで過ごすか、ゲームはどんなことをするかなど生活のことを聞く。

先生も親も原因を相手の責任にしているがそういう場合はたいてい両方に問題がある。

その子の興味・関心を聞き、SCとつながりをもてると先生も親も安心する。

本人もSCと会いに来られることが安心になる。

担任の先生が勉強を教えてくれると教室に戻れるようになる。それが進路につながる。

先生とつながれたことは高校で活きる。

家庭外の学習支援につながれることが自信につながり本人も胸を張れるようになる。

10 不登校の原因(関係する因子)

学校の先生は、本人の要因と考えがち。

次は家庭。本人・家庭は学校、先生が要因と考える。

みんな自分のことはわからない。

しかし皆関わっている。

SCは全部の可能性や関連をみている。

11 学校・社会への耐性 レジュメ

どんな視点でみるかというと、子ども達の耐性を見ている。

家庭の中でどこにいるのか(自分の部屋だけか、家族のスペースにいるか)、食欲はどうか、顔色・声のトーン、緊張感・リラックス度などを話しながら常に見ている。

それから外出できる時間はどこか。

だいたい学校のある時間は後ろめたくて出られない。

どこまでの空間を安全としているか、100%のうちのどのくらいか聞いてみる。

例えば、相談室は40%、自宅は70%、電車は?と聞く。

元気パワーマックス100%だと今どれくらい?と聞く。

他者との関係(家族、友人―中でも誰かなら大丈夫か?、先生は?)も聞いてみる。

これらは時間とともに変わっていくので、段階を踏んでいろいろな事を仕組んでいく。

12 不登校児童・生徒に求められる支援

まずは、安心・安全が大事で、対応は教員がいい場合も教員でない方がいい場合もある。

異年齢がいい場合も同年齢がいい場合もある。

家族以外の場面、2者から3者、3者から集団場面にいくように段階をおっていくようにする。

興味関心のひろがりはとても大事で、先生方はなぜゲームのことなんか聞くのかというが、SCは子どもと遊ぶことがもすごく大事にする。

その中で自己肯定感が高まる。

その中でエネルギーが満たされてやっと難解な勉強の方に行ける。

勉強も大事で、今の社会で勉強をまったくしないでやっていくことは難しい。

自分がある程度勉強がわかったというのは自己肯定感のひとつになる。

そして社会に出るツールになる。

進路、先をみることがすごく大事である。

13 架空事例3

兄弟の面倒をみるために学校を休んで、不登校になった例。

うそをつく子は、虐待を受けている場合が多い。

隠さなくてはならないことがたくさんあるから。

うそは一つのサインだと考える。

児相に行き、施設に入り、学習支援をつけてもらって、高校に行くことが出来た。

14 不登校の予後

このようにどこかで未来につなぐのは大事なことである。

中学校において不登校だった生徒の予後調査(中3で30日以上欠席した25992人が20際の時)

  • 社会に良好な適応が出来ている割合…7割強
  • 不就労・不就学の割合…2割強

*ただし、調査に協力した人というバイアスはかかっている。6:4くらいにはなるのではないか。

これが私たちの仕事の醍醐味ではないか。

そこで必要なのは、学習や社会とのつながりだと考えている。

〈グループの話し合いと質疑応答〉

第一グループ…小中高の現場の人が集まったグループ。ここは安心だという子どもとの関係づくりがすばらしい。しかし学校はハードルが高いこともあり、うまくいったことだけでなく難しい事例も聞いてみたい。

第二グループ…先生と子ども食堂をやっている者同士で互いのやっていることを聞き合った。

第三グループ…学校の外にもっと大変な子がいることを知った。地域でやっている事例が重く、学校は親が関わっているだけなんとかやっていけていると感じた。

〈質問〉

・児童相談所との相性があって、子どもが合わなくてうまくいかなかった例がある。

(佐竹)難しいが、それが失敗だったかはわからない。児相が混んでいて、なかなか受け付けてもらえないという問題もある。今度ようやく児童心理士、児童福祉司を増やすというが、13万人もいる(虐待に対して)足りるのか。

・学校外から支援するときになかなか理解してもらえないことがあるが、先生方と接するとき気をつけていることがあるか。

(佐竹)ひとそれぞれなので、一つの方法ではない。人は、その人がいるから開けていくということがある。子どもに関わる仕事というのは必ず意味がある。それがすぐに伝わらなくても、自分を信じる。現場によってこちらが提供しようとすることを向こうがいらないということもある。何が自分に求められているのかを知って、自信をもって自分のできるものを提供する。まずは子ども達の成長のために何を必要としているのか、そこが大事である。

・児童養護施設を出た後の子どもの食事会をやっているが、児相とどうつながったらいいのか。

(佐竹)ありがたい質問だ。社会を泳いでいくのは太平洋を泳いでいくイメージと同じ。休みたいときもあるだろう。どこかで誰かが止まり木になることが大事だと思う。