第3回不登校支援のための勉強会
2018/11/15 於 日大文理学部
講師 町田市立忠生中学校長 橋本顕嗣先生
題目 「中学校を知る~現場の校長の立場から~」
私は中学校の校長をやっていますが、不登校のことはみなさんのほうがよくご存じだと思いましたが、SSWは中学校のことをよく知らないということで、今日は中学校のことをご紹介するということでお話しします。
1 自己紹介
私はロンパールーム世代で、うつみみどり先生にお世話になったのです。なぜかというと、私は幼稚園に一年しか行っていないのですが、ほぼ半分お休みしているのです。理由は一緒に通っていたのり子ちゃんがあまり好きではなかったから。いまだに母親にお灸をすえられた痕があります。不登校のはしりです。小学校は行っていましたが1人遊びが多かった。ただ野球が好きでそんなことがきっかけで、ずっと学校には行けるようになりました。でも、子どもが学校に行けない理由って意外とそんなものなのだな、と思っています。だからいまだに、不登校の子がいても「別に」「無理に来なくてもいいのではないか」というのが根底にあります。 今現任校16年目です。教諭(2年)、主幹教諭(6年)、副校長(5年)、校長(3年目)・・・出世魚と言われています。東京都でそういう人は他にいないと思います。
2 中学校を知る 中学校ってどんなところ?
中学校の現状ですが、年間200日なので三年間で600日中学校に通うことになります。授業で言うと3150時間という気が遠くなるような時間数、更に余剰を出せというので、多分3200~3300時間、九教科と道徳・総合・学活などを入れてあります。その他宿泊など色々な行事があります。小学校と端的に違うのは、義務教育が終わって次の進路をどうするか、というのがとても大きい。中学校の目指すところは、文科省がいっていることですが、「人格の完成」ということです。中学生で人格の完成ってすごいと思うのですが、いかに自立してやっていけるかということですね。
私が忠生中にやってきたときは、俗に言う荒れたという状況にありました。好き勝手な頭して好き勝手な服装をして、いろいろ驚くような行動もあり、近所から「公園にたむろっていますよ」と電話がかかり毎日のように出動したりしていました。でも、今は非行・不良少年という子は本当にいなくて、町田市の中でもここ数年いない。ちょっと親とケンカして家出したとか友達とトラブルがあったとかで、煙草吸うのもかっこいいという雰囲気がなくなりましたね。
以前は非行に対して教員が押さえ込むという状態でしたが、今二十歳くらいの子どもたちからほんとうに落ち着いてきました。今は発達の課題、通級学級へ行く生徒の増加があります。昨日も若い先生が「席替えをしたら後ろの子が嫌だといって休んでいる。お母さんも、女のお母さんにはわからない、と言われ、大泣きしていると言うのです。」と報告がありました。昔なら「あんたなにやってるの!」というところですが、今はそういうことも特殊性として捉えて、教員もそういう子を理解して支援しようということにようやく中学校もなってきています。十数年前に荒れ狂っていた子どもたちもひょっとすると今と同じ困り感があったのだろうし、今のようなスタンスで関わっていたらあそこまで荒れていなかったかもしれないと思うし、今思うと、あの子はアスペルガーだったのではないかという症状だったりします。今は見方が変わった。そういう意味では昔に比べ、中学校は子どもたちにとって暮らしやすい場所になっていると思います。
今は町田市の子どもだったら全員が忠生中を選べる制度になっています。そのために学校の説明を9月にしています。どこの学校もそうですが、忠生中も知・徳・体に力を入れていますが、うちの学校の子どもたちは勉強があまり得意ではないので、放課後に先生たちや学生で勉強を見ています。それが勉強につながるかはわからないが、勉強に向かうことだけはさせたいと考えています。“時に厳しく”は難しくなってきて、怒鳴ると目が白くなって倒れてしまうのではないかと思うくらいの子どもが増えてきたので、どこの学校でも校内で怒鳴り声がなくなってきたのではないでしょうかね。中一の頃に強く怒られるとそれだけで遠ざかってしまう。慣れ親しんで関係を作ってからでないと厳しい指導はできないと思います。優しいのにもう慣れているので、厳しさの中身が違ってきているのかもしれません。
道徳が小学校は今年から、中学校は来年から教科化されることはご存じかと思います。毎週1回、年間35回やりなさい、ということになりました。来年から教科書もできるので、道徳をやっていくことになりますが、これはいじめが大きな問題で、ここから発して教科にしようということだと思います。所見での評価になりますが、担任は結構な負担だと思いますね。担任はしたくないという人が出てきてもおかしくないと思うのですが、今の若い先生はまじめでちゃんと研究して臨もうというスタンスで、えらいな、と思っています。
運動会、合唱コンクール、卒業式など行事はとても大事にしています。3150時間の勉強と言いましたが、それ以外のところで育つ子も多いです。運動が得意な子、合唱が得意な子、遠足でリーダーシップを発揮する子。しかしそういう行事がどんどん縮小されている傾向があります。私が担任をしていた頃は、三年の最後はクラスでお別れ会などを子どもたちが企画して同窓会の現役バージョンみたいな事をやっていましたが、本当に今そういうことがなくなってきています。子どもがどこで自分たちの力を発揮するのか、と思う部分は正直あります。
中学校というと部活ですが、来年からスポーツ庁からの通達で、週1回、土日の1回を休むということになりました。中学校はこれに従うことになると思います。先生たちの働き方改革ということが言われているので管理職としてそれはいいかなとは思います。でも親御さんが、部活やらないときの地域の受け皿はあるのですか、というのですが、なかなかないですね。忠生中は740人くらいいるので部活動も多く、(学校)選択してくるのですが、顧問がいないこともあったり、同じスポーツに顧問が何人もいたり、環境も含め課題がいくつもあります。今過渡期で悩ましい時期です。10年前は学校に来ていない子が部活動だけ来るというのはあきらかにダメだったと思うのですが、今は部活動だけでも来るならいいじゃない、というようになった。今、ある文化部にだけきている子どもがいます。朝苦手なので、部活は午後ですから。それまでは生存確認した方がいいんじゃない、という子だったので、顔見せに来るだけでもいいのでは、というスタンスに変わりつつあります。
生徒会の活動も重要だと考えています。これは近所に清掃に行っている写真です。うちの学校は玄関を入ると16畳くらいの花壇が四つ並んでいるのです。町田市では春秋に種を分けてくれてコンクールをする催しがあるので、地域の人と子どもたちで花壇づくりをやっていて、ずっと優秀賞をもらっています。花はいいですね。子どもたちが荒れていた時期も花壇だけは入らなかった。
特別支援級に30人います。8人越えると2学級になるので4学級扱いです。支援級から通常級に行く子も毎年います。中学校はどこもそんなに変わらないのではないかと思います。
去年70周年でビデオを作ったので、見ていただきます。そのときに作ってもらった曲も流します。(ビデオを見る)全員合唱もやったのですが、よく歌う子どもたちです。
3 不登校の現状を考える
○背景を考える
・少子高齢化の影響
不登校の問題についてですが、時代も地域も変わってきています。私は両親とも兄弟が多く、いとこが何人いるかわからないし会ったことのないいとこもいるのですが、うちの息子なんか5人くらいしかいないんですよ。いとこって同世代が多いので、親戚が集まったときに、お兄ちゃんお姉ちゃんの斜めの関係の人が結構いたと思うのですが、今はまったくない。また子供会の加入率が低いと嘆いていました。マンションに住んでいると、上下の階の人とも挨拶しない場合が多い。では、世間を増やす方法って何かありますか。地域の伝統芸能は大切ですが、教える高齢者がだんだんいなくなってきている。そういう意味でソーシャルワーカーとかスクールカウンセラーとかがすごく意味のある仕事にどんどんなっていくのだろうと思っています。
・地域と公共施設の関係性
小中学校の統廃合が進んでいますが、皆、嫌がるのです。町田市では小中高全部の母校がなくなったという例があります。また保育所の設置となると近所に人が反対しますよね。なぜか? 子どもの声や送迎の車が嫌なのでしょうね。大学の先生が言っているのですが、小学校とかは地域の人を呼んだ行事とかがあるのですが、保育園はそんなに地域と関係がないということもあるのではないか、ということもあるようです。つまり地域の文化が集まっているところが学校だというスタンスに変えていかないとなかなかうまくいかないのではないかと思います。
・子どもの遊び方考
子どもたちのままごとも変わってきました。以前は料理を作るところから始まっていたけれど今は配膳だけします。つまり世の中の働き方が違ってきた。子どもたちが家の中で料理を作る過程を見ないで並べているところだけをみることが増えてきているのだと思います。子どもの遊び方も、夜ぐっすり眠るような体を思い切り使う遊び方が少なくなった。昔はジャイアンみたいな奴との付き合い方はこうしたらいいのではないかとか、自分は遊び集団の中でどうしたらいいかとか、いろいろ遊びの中で磨く機会があったけれど、そういうことが本当に少なくなってきた気がします。
・女子の力
「草食男、肉食女」という言葉が出てきましたが、うちの学校で生徒会役員7人のうち男2人、女5人です。合唱コンクールなども、指揮と伴奏者は女の子の方が多いです。体育大会や文化祭の実行委員長も女の子が多いですね。女の子の方がよく働ける、リーダーシップが取れる。応援合戦をやっても応援の振りができる男の子は本当に少ないです。女の子の方ができる。どうやったらかっちりした男の子が育てられるのか課題です。うちの学校の男の子たちもみんな見た目もつるっとしてきれいだし、繊細で優しくお母さんにも反抗しない。それって大丈夫かなと思います。不登校になっている男の子たちは本当に優しそう。きれいな男の子たちが家に引きこもっているというのは子どもの頃から何とかしなくてはいけないのではないかと思っています。
○30年間の不登校の推移と世相の影響は?
(不登校の児童生徒数のグラフを見て)注目していることがあるのですが、不登校数は平成7年で急に増えて、14年に少し収まるのです。そして今から5,6年前から増加傾向にある。
町田でも中学生1万人くらいいますが、去年不登校は380人くらいになっています。クラスに一人はいる事になります。平成3~5年は、バブルが終わって世の中が不況になった頃です。平成7年は、阪神淡路大震災の時です。その年はオウムのサリン事件もありました。世の中がしんどくなったときに不登校が増えているのです。子どもたちは敏感なので、世の中の空気を感じていたのかなと思います。
平成10年からは増えていない時期なのですが、それは土日がお休みになった時期、平成14年が完全週休二日制になった時期なのです。学校に不適応な子が、土日が休みになってちょっとほっとできなのか、と想像ができる。そして平成24年くらいからちょっとずつ増えているのです。平成26年に中央教育審議会が不登校生徒が増加した理由について、「人間関係をうまく構築できない子どもが増えていること」「家庭の教育力の低下により、生活習慣が身につかない子どもが増えていることが不登校につながっている」「無気力でなんとなく登校しない生徒が増えている」と言っています。これ、どうしたらいいのと思います。そこで、スクールソーシャルワーカー登場ということになるのかなと考えています。
4 事例から
(具体的事例の記録は省略)
・私が担任していた頃と比べて適応教室やSSWのようなケアの場があって、ありがたい。
・転校によって不登校を解決した例も多くなった。環境を変えるということもひとつの手段になっている。
毎日四十人くらいお休み。すぐ休ませてしまう。不登校予備軍も支援しなくてはいけないので、手が足りない。先生たちは、学校に来ている子にどれだけ力がそそげるかが第一になっていて、休みがちの子は、担任としても困り感があるので、第二、不登校がどうしても第三番目になってしまう。しかし、ここが重要だと思います。先ほど言いましたように、授業に来なくても部活だけでも来ればいいのではないかとうちの学校はなりつつある。しかしそれはどこの学校でもそうというわけではない。それは校長の考え方だけでなく、先生たちの考え方もすごくある。
5 今後にむけて
○教育機会確保法の重み
教育機会確保法のキーワードは二つあります。ひとつは「休んでいいよ」ということを国が言っていること。その理由は、休んでいることで卑屈になることはないんだよ、可能性はあるんだよ、ということ。もう一つは、学校以外の所の重要性を言っています。BOPとか図書館とかそういう場が重要になってくるのではないか。特別支援の考え方がずいぶん変わりましたよね。車いすの人にがんばって階段を上らせるというのが前の考え方だったけど、今は、上らせるのではなく環境を整えようという考え方になっているように、不登校の子どもたちは、学校に行かなくてもいいのじゃないか、と国が言い出したのはすごく大きいと思います。
○具体的なアクションへ
ところが、学校以外の場の重要性といいますが、みなさんの地域にありますか。学校に行かない子が、学校以外の場と言われて何を考えるか。児童館、図書館・・・。何かがあるのか、ということを考えなくてはならない。
町田の中にも5つ、子どもセンターというのがある。近くに「ただON」というのがあります。不登校だけでなく、やんちゃ坊主も結構お世話になっていて、学校と連携を取っていくことは重要になっています。ただONには、がやがやデーというのがあって、不登校のためというわけではないが勉強するスペースを作ってくれていて、地域にそういう場があることがわかりました。そういう場を発掘していく必要があると思います。つまり、本人を取り巻く関係が図のようにあるわけですが、民間機関や公的機関が行政の中でまだ端っこの方に追いやられている気がします。こういうところが一体になって進めて行かなくてはならないと感じています。(下図参照)
うちの学校の場合、不登校になったら何かのきっかけでSSWに入ってもらって引っ張り出して、近所の児童館などにうまくつなげられたり、あるいは部活などこれなら来られるのではないかという細い糸をたぐり寄せて少しでも学校に来られるようにする。これからは学校だけでなく、地域と関わっていかないと不登校は解決しないし、多くの子どもたちが、学校に行かなくても大人になったときに、ちゃんと自立してやっていけるように、みんなで見て行かなくてはと思っています。
レミオロメンの「3月9日」の歌詞
♪瞳を閉じればあなたが/まぶたのうらにいることで/どれほど強くなれたでしょう
あなたにとって私もそうでありたい
そんな人であれたらいいと思いますね。