不登校支援のための勉強会 第一回記録

第一回 不登校支援のための勉強会 

2018/9/20 於 日大文理学部

「教育委員会(行政)からみた不登校対策の現状、課題、そして可能性」

講師;元葛飾区教育委員会統括指導主事(不登校対策担当)
   文京区立大塚小学校長 加藤 憲司先生

1. 一般社団法人 子ども・若者応援団 代表 竹村睦子より挨拶

2. 日本大学教授 諏訪徹先生よりご挨拶

3. 講演内容(レジュメ参照)

・不登校の定義…
①何らかの心理的、情緒的、身体的あるいは社会的要因・背景により、児童生徒が登校しないあるいはしたくてもできない状況にあること。
②年度間に連続または継続して30日以上欠席

 例えば、月3日休んで×11ヶ月=33日で定義上、不登校となる。しかし、月3日休んでいる当事者や親は、不登校という意識はなかったりする。行政的には29日と30日は「不登校」か「不登校でない」と大きく違うが、実際には我々がもっている不登校のイメージ(家にこもって外に出られない)とは違うこともある。1998年以前は「登校拒否」と呼んでいた。これは自ら拒否するという意味だが、「不登校」に変わった。

・不登校の分類…
学籍の欄で、「非就学」というのはインターナショナルスクールやフリースクールに通っている子供が該当するが、そもそも学籍がないので「不登校」の数には全く入ってこない。また、状態としては「登校」と「不登校」と「不登校気味」があり、「不登校気味」の中にも、継続的な長期欠席と断続的な長期欠席、一過性の欠席がある。「平成28年度児童生徒の問題行動・不登校等生活指導上の諸課題に関する調査(文部科学省)」の結果に、「理由別長期欠席者数」がある。

小学校では約650万人弱の在籍数に対して6万7千人くらいが「長期欠席」している。このうち、30日以上欠席の不登校は約3万人いて、中で一日も学校に行っていない子供は877人、90日以上行っていない子が多い、というように見る。「その他」が約1万6千人いるが、これが問題であって、SSWなどと取り組まなければならないケース、具体的には「保護者の考え方、無理解・無関心、家族の介護などの家庭の事情」等が該当する。私の過去の経験でも、家庭で炊事、洗濯、下の子どものお迎えなどお母さんの代わりをする為に学校に来られない子供がいた。

改めて小学校の不登校の全体像を見ると、長期欠席のうち、病気が約3割、不登校は、その他のうち不登校要因を含んでいるものも含めると約5割となっている。

 これが中学校になると、病気が16.2%、不登校が74.2%と小学校と比べると、病気を理由とする子が減る。小学校から中学校へ行くと、病気の子が減り、不登校の子が増える傾向にある。一方「学年別不登校の児童生徒のグラフ」を見ると、中学1年でどんと増えていわゆる中1ギャップと思われる状況がある。

これは私の私見であるが、この欠席の理由を選ぶのは学校の先生であり、小学校で病気としてカウントされている子が、中学校で不登校としてカウントされていることがある。小学校時代のことを学校に聞いてみると、小学校時代は「お腹が痛くてよく学校休んでいた」というケースが「病気」とされていたりする。小学校ではお母さんが学校に「お腹が痛いと言っています」と連絡していたのが、中学校になるとお母さんではなく、本人が行きたくないと言い出すということではないか。問題なのは、小学校時代に「病気」とカウントされていることから、教員にも早期に支援を行う意識がもちづらく、十分な支援が受けられないことである。

・「不登校児童生徒の欠席期間別実人数」の表を見ると、小学校の30~89日が54.9%で最も割合が多い。学校に来られている日もあり、これらの子供は登校支援の対象になる。欠席日数90日以上で出席日数11日以上が37.8%、この子供は別室登校や適応指導教室につなぐ対象になるかと思われる。欠席日数90日以上、出席0~10日というのは、学校の先生だけの対応では難しく、ケースによって学校以外専門家との役割分担も必要であり、またアプローチの方法も違ってくる。このように、「不登校」といっても、対象となる子供によって対応は様々であることが、欠席日数だけをとってもわかることを知っていただきたい。また、中学校では、欠席日数90日以上欠席で出席日数11日以上の生徒が約5割で最も多く、小学校に比べて増加する。欠席日数30~89日の生徒を示す約38%と併せて約9割を占めている。なお、出席10日以下の生徒は約12%、これは学校だけで対応するのではなく、専門的支援が必要なケースであると考えられる。

・「不登校児童生徒の割合の推移のグラフ」を見ると、小学校は0.47%(213人に1人)、中学校が3.01%(33人に1人)、これは人数なのでグラフを見ると、やや右肩上がりくらいに見える。これを「不登校児童生徒の割合の推移のグラフ(1000人当たりの生徒数)」で見ると、明らかに中学校のほうはぐんと上がってきている。子供の数が減っているから人数は変わらなくても、割合は増えているということである。

・「不登校児童生徒の在籍学校数」を見ると、公立小学校は全国に約2万校の学校があり、そのうち半数の学校に不登校の児童が在籍していることがわかる。逆に言うと半数の学校は不登校がゼロということである。また、公立中学校のうち約86%の学校に不登校が一人以上在籍している。約14%の学校は不登校生徒が在籍していないというが、先ほどの33人に一人の割合で在籍しているということを考えるとどのような工夫をしているのか、興味があるところである。

 このように数字をよく見ると、「不登校」と言っても、学年末までに30日くらい休んだ子とほとんど出席できていない子では全く対応は違うわけであり、学校が対応するのか、専門家が対応するのかなど、家庭背景も含めて学校はよく見ていかなければならない。今までは学校がすべてやろうとしてきたが、ずっと欠席しているような子供はもう家庭訪問しても難しい。先生は、子供が明日学校に来るのが楽しいなと思える授業をすることを目指す専門家として頑張って、家庭訪問などの支援はその専門家に委ねていくような役割分担がこれからは必要になってくると思う。

・「不登校の要因」を見ると、本人にかかる要因で「学校における人間関係」の課題を抱えていて、かつ学校の要因に「いじめを除く友人関係をめぐる問題」が72.2%と一番多い。「教職員との関係をめぐる問題」は少ないが、これは回答者が学校の先生なので、本当はもっと多いのではないかとも言われている。「遊び・非行」の傾向がある生徒で学業不振が27.6%いるが、これは「学業が不振」だから「遊び・非行」の傾向が出たのかもしれない。小学校1年で入学してきたときには本当に勉強が好きだが、やがて出来なくなるのは学校にも責任があったり、本人にも要因があったりするのではないかと分析できる。また、本人の要因として「無気力」「不安」が共に30%前後で大きい。本人要因で「あそび・非行」傾向で「家庭にかかる状況」というのが74.8%ある。「あそび・非行」傾向の子供は夜外を出歩くのだが、それは夜に出かけることに対して家庭で十分に指導できていない可能性もある。不登校の要因は当然、本人の要因もあるが、学校の要因や家庭の要因もあることをしっかりと観察することが大切である。イメージとして、コップがあって、家庭の要因と本人の要因があるところで、友達関係で問題があると水があふれてしまうというケースも多いのではないかと経験的に考える。

 次に中学校を見ると、「無気力」「不安」で約6割。第3位が「学校における人間関係」、これはSCが相談にのる部分だろう。「学業不振」が小学校より上がってくる。また「いじめを除く友人関係」―小学校より複雑になってくるので、多いかと思われる。「家庭の状況」もある。このように「不登校」といっても「本人の状況」「学校の適応の状況」「家庭の状況」といろんな面を見ていかなければいけないし、要因が混ざっていて単一ではない場合も多い。

・「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律」が平成28年12月に公布された。ここには「全児童生徒が…安心して教育を受けられるよう」とあり、不登校児童生徒だけではなく、すべての児童生徒が対象であることに留意する必要がある。④の項目「能力に応じた教育機会を確保する…」により夜間中学校を設置する動きが、各自治体で検討されている。東京都には8つの夜間中学校がある。「夜間中学校の現状」のプリント参照。通う生徒は1,687人。今回この法律で、既卒者でも実質的に勉強できなかった子供を対象にできることになった。また、教育支援センターの活用も挙げられている。ただし、教育支援センターは不登校児童生徒の約3割しか活用できていないとのデータもあり、訪問支援を行う自治体も増えてきている。来るのを待つのではなく、アウトリーチするということだ。また今後、ICTを活用した支援も考えられている。この時代、学校に行かなければ学べないのかというと、海外ではICTなどを使って家庭で学んでいる国もある。

・この法律が出来たときの衆議院・参議院 文部科学委員会の「附帯決議」がある。そこには「不登校」が問題行動と取られないようにと書かれている。今回「学習指導要領」の改訂で、総則に、特別な配慮を必要とする児童への指導の中に「不登校児童への配慮」が書かれるようになった。この意味は大きくて、法的に教員はやっていかなければならない。この言葉に魂を入れることが今の課題である。

・私の考え 
「不登校」が「問題行動」の中に入れられているが、「問題」とすべきは、学校に登校することが出来ないことで社会的な自立に影響が出ること。安心して教育を受けられる学校を作っていかなければいけない。しかし学校は万能ではないのでいろいろな場が必要だと感じている。

・葛飾区にいたとき、早期に国のスクールソーシャルワーカー活用事業に取り組んだ。当初は1人だったスクールソーシャルワーカーも現在では、増えているが、大正解だった。今、小学校の現場にいて、いい経験だと思っている。

〈質問〉
・在籍児童数に外国籍も入っているか―
〈答え〉入っている。

〈質問〉
教育委員会は、学校の中で解決という考えが強いし、教育行政の壁は厚いと思ってきた。
〈答え〉
・学校の現場でも、今日のような不登校の話はしてきた。学校の先生はまじめな人が多くなんでも自分でやろうとする。連携・協働が苦手な人たちである。今、チーム学校といわれて、SCなどいろいろな人が入っているが、学校の先生が教育をしているという意識を変えていかなくてはいけない。できないことは連携していく。学童なども連携していかないと子供は見ていかれない。今、選択肢ができつつあり、子供によって選べるようになってきている。学校の中に別室があるだけでも違う。北区飛鳥中学校では学校では保護司の人が学校内にいて、子供の相手をしている。いろいろな専門家がいて、支援をする人の一人が教員。みんながわかる楽しい授業をするのが、教員の仕事である。頑張っていろいろやっても授業がおざなりではちょっと違うと思う。今の小学校で教員の仕事を減らす具体的なこととして、行事の写真を教員がお金を集めたりするのではなく、ネットで注文して直接業者が親に届けると変えた。連携をどうやっていくのかが大切だが、横の壁はなかなか壊せない現実はある。しかし最終的には「人」だと考えている。