第6回 不登校支援のための勉強会
2019/2/14
於 日本大学文学部
テーマ;まとめ~これからの不登校支援を考える~
講師;竹村睦子ソーシャルワーカー
はじめに
そもそも、不登校支援にはいろいろな人が関わっているわけだが、インフォーマルで人としてつながっていくことが少ないので、区の助成金をとってこの会をもった。
日大の諏訪先生にもご協力をいただき最終回を迎えられたことを嬉しく思っている。
私はソーシャルワーカーという立場から、子ども支援にどう向き合っていくのか、向き合っていかなければならないのか、をお話しさせていただきながら、参加された皆さんが知り合う機会とするためにも事例検討をしていくというプログラムにしている。
自己紹介
1 個人事務所 ソーシャルワーカーとしての活動
1 相談…2008年に独立した時点では地域に有料で相談を受けるという発想がなかった。
児童は無料という感覚で、そのあたりから専門職としての立ち位置が見えにくくなっていた。
現在は原則有料だが、地域のご相談は学齢期のお子さんが多いので、寺子屋みらいに連れて行くということで相談を受けて無料にしている。
寺子屋みらいは、15,000円の参加費を頂いている。但し、生活保護・ひとり親家庭のお子さんはすべて無料となっている。
金額を明示しているのは、頂くところからは頂きましょう、ということで、運営費は会費から捻出するようにしている。
そのため、助成金がなくても安定した活動ができる、というのが特徴かと思う。
「子どもの貧困のための」とか「ひとり親のための」とか子どもの立場を冠に付けた活動は私はダメだと思っている。
子どもがそこで色分けされてしまうとか、同じ立場の子どもだけが集まって何かをするというよりは、むしろどんな子どもも一緒に何かをする、地域の子どもでつながっていくということを大事にしたい。
それで有料にしている。
寺子屋みらいは講師やインターンやソーシャルワーカーはすべて無償の活動になる。
2 自治体教育委員会非常勤職員(スクールソーシャルワーカースーパーバイザー)
…町田市でやっている以外、法人として特別支援学校の外部専門員として契約してスクールソーシャルワーカー(SSWr)としての活動もしている。
SSWrはいろいろだが、子どもを真ん中にしたSSWでなければいけないという研修をしてSSWrをしているので、関わった自治体は、家庭訪問・面談などなんでもありの本来のSSWrの形になっている。
3 大学非常勤職員(「ソーシャルワーク論」)
それ以下、の事は今までになかったオーダーである。
4 自治体生徒の自殺事案にかかる調査委員会委員…これは遺族推薦。他の方々は職能団体の推薦である。
5 特定非常勤法人認定保育園運営委員会第三者委員
6 自治体いじめ問題対策委員会委員
7 都立学校人権教育推進会議委員
6,7のようなところにソーシャルワーカーの専門性で呼ばれるようになったのは最近のことで、SSWrの事業が立ち上がったことで、ソーシャルワークの概念が拡がったという印象をもっている。
子ども支援は、学齢期の子どもは学校中心に行われている。
児童福祉の分野は、児童館・学童保育などあるが、「措置福祉」である。
親と機関が契約しても、子どもが契約するわけではない。
子どもの意志を尊重して何かが行われることは少ないところに、児童福祉の課題がある。
また、児童福祉は誰でも出来ると思われているのかと疑いたくなる状況がおきているのがとても残念だ。
子どもと関わると言うとき、一番大事にしなくてはいけないのは、人としての誠実さであろう。
言葉一つで子ども達は影響を受けていく。
何気ない一言で子どもは心を閉じてしまう。
その結果として支援がその子どもに入らなくなってしまう、ということが起こりうる。
大人と比べても専門性が高いと私は思っているが、なぜか子どもと全然関わっていない人が突然SSWrになって、母親のことを批判的に言ったりする状況があるのが残念だと思っている。
2 ソーシャルワーカーから見える子どもの困難
1 自殺
…文科省の調査で250名(小6名、中84名、高160名)の自殺が報告されている。
子どもが自殺する国はまずい。
子ども達の困難に出会うことが多いが、この子が次に会うときに生きているか、と思うことが度々ある。
リスクを感じるのだが、児相や先生の中には「子どもの命は常にあるのだ」ということを前提にして悠長に構えている人がいてはらはらする。
「子どもは生きているだけで100点満点」ということをどれだけ子どもに伝えられるかが、子ども支援者の必要なことだと思う。
そう言っても子どもはなかなか信じないけれど、「100点なんだ」と信じさせることが支援者の力量である。
2 いじめ・不登校・中途退学・ひきこもり
・・・学齢期の特徴。
「教育機会確保法」ができたが、福祉とどうつながっていくのかはまだ未知数だ。
不登校を受容的に考えるように文科省が言っているが、では不登校の子どもをどうするかはこれからだ。
中学と高校でずいぶん違い、高校では出席できなければ退学になる。
不登校の子どもはほぼ進学するが卒業するとは限らない。
卒業するところまで誰が見ていくのか、という仕組みが出来ていないところが心配である。
不登校に限らず、子どもの問題はいろいろ絡み合っていて一方向からだけでは見えてこないものがあるので、連携・協働が大事だと考えている。
学校はあくまで教育の専門職なので、社会福祉の専門性が学校に入る必要がある。
最近、SSWrは「配置型」がいいのではないかと思っている。
それによって予防が可能になる。
今派遣型が多いが、重篤になってからのケースが多いので、解決が難しく中学卒業が終結になってしまう。
毎日でなくても、学校にいて、先生の関わりも含めて定着していくことが大事だと思う。
3 発達障害
…診断名は関係なく、「特性によって生活のしづらさがどう引き起こされているか」というところで見ていく。
コミュニケーションの課題が子ども達のしんどさを引き起こしている。
発達障害の場合、不適切な養育、特に父親の受容が非常に厳しい。
私たちの仕事として、父親の受容に働きかけることが発達障害の支援では大きい。
また、病気ではないが障害ではあるので、人生で味方を作りながら生活する環境を整えないと、苦しい生活をすることになる。
特に万引きや性的課題のような警察が関わる場面に居てしまう子ども達を誰が支援するのかということも、子ども支援において大事なこととして捉えなくてはならない。
これは少年センターの活用が見直されていいと思う。
4 家庭養育の困難
…これは非常に多い。
虐待については悲しい事件がまた起こってしまったが、誰が悪いと言うより、そういう社会なのだということ。
児相が悪いと言われるが、児相は状況をちゃんと把握できるほど整っているかというと、仕組みは出来ているが、人の忙しさが尋常ではない。
児相にお金を掛けて人を入れて、というところから始まらないと、重大事件が起こると右往左往して、その時が過ぎると元に戻ってしまう。
再婚は子どもにとってリスクである。
新しい家族をどう自分の中に受け入れていくのか。
「お母さんがにこにこしているのは、嬉しい。でも、そのおじさんのことをパパと呼ばせないで欲しい。パパは僕にとってはひとりだ」という話をした子がいる。
離婚して母方の実家に戻ったときパパの悪口をいっぱい聞くというのも子どもの傷つきになるというのはあまり語られてこなかった。
再婚をするなというのではないが、それによって子どもは課題をもってしまうということを知るのが大事だと思っている。
児相の一時保護は命優先だからやむを得ないが、一時保護の場所も整っているとは言い難い。
一時保護から帰ってきた子どもが言う言葉は、「もう絶対親のことは言わない」ということ。
そこはどうなっているのか、関心をもってみんなが考えるべき事だ。
子ども食堂が大ブームになっていることはいいと思う。
ただ月二回の子ども食堂で子どもの食が充足されるわけではない。
大事なのは、子どもへの関心を日常にどうつなげていくのかということである。
3 ソーシャルワーカーから見える不登校支援の現状
1 不登校は14万人を越え、低年齢化している。
そういう子ども達は家で過ごすのだが、お母さんと過ごせる子どもは少ない。
学齢期の子どもがうちでひとりで何をするのか、と思うと、これは児童福祉ではないか。
学校がすべてやるのは無理。
家庭にいる子どもにどう過ごさせるかを考えるのは地域の大人たちだ。
最近は児童館にお願いをすることがある。
しかし、児童館の職員には「学校を休んだのに、児童館で遊ぶのはだめでしょ」という考え方がまだまだ多い。
学校に行くのは子どもにとって権利であって義務ではない。
不登校が増えていることをどう見るかだが、子どもは学校に行きたがっている、と思う。
不登校で中三を迎えた子ども達のほとんどが高校を希望するのはそこだろう。
不登校であることをマイナスに考えることはないけれど、できるだけ学校で過ごせる学校づくりは考えていく必要があると考えている。
2 不登校支援は見立ても手立てもバラバラで、支援計画がないまま行われている。
そのためには、目標を立てていくわけであるが、アセスメントによって見え方が違ってくる。
中学校までの課題を解決できないまま高校に通えず引きこもっているという現状がある。
3 うまくいかない教育と福祉の連携・協働
…不登校は学校の課題という意識がまだあるが、子どもの困難は多様で学校の責任ではない。
連携・協働がうまくいかない理由としては担任の責任感が影響する。
担任の「子どもを私が何とかしなくては」という思いが結果として他の支援者の介入を阻止してしまう。
4 子ども支援に必要な視点
1「日常生活」「あたり前の生活」を過ごさせるのが大切。
朝起きて、昼活動して、夜寝る。
学習と社会参加を保障するというのが「あたり前」ではないか。
それをするために「ちょうど」の見極めが大事で、そのために「子どもの自己選択・自己決定」が重要。
まだ「措置福祉」であって、子どもの権利を保障するという考えが大人に不足している。
2 学校をアウトリーチ支援の拠点に
…どこですごそうと、「在籍」は子どものアイデンティティにおいて非常に重要。
その上で、学校に教育以外の専門性をどう入れていくのか。
担任の先生との関係性は絶対である。
担任の先生はよく「学校に来てさえくれれば」と言う。
だからこそ家庭訪問してあげてと思うが、家庭訪問で「学校においで」と言ってはだめで、そう言うと「もう来ないで」と言われてしまう。
担任でなくても学校の中の誰かが家庭とつながっている必要がある。
3 人や社会とつながる場所や機会の必要性
…SWは三つの仕事があるが、
一つは子ども支援で、まずは受容すると言うこと。
自己選択してもらうために、あるときはワーカーは密接なつながりを意図的に作る。
しかしそれは‘非日常’であって、いつかは終わらなくてはいけない。
ワーカーの抱え込みは非常に危険だ。
子どもの秘密をいっぱい知っていると子どもを理解していると勘違いしてしまう。
外から見える情報を子どもが本当に思っていることは一致しないことが多い。
なぜかというと子どもは適応しようと大人が期待している姿を演じて見せてくれることがある。
それで怒られることはないが、本当に子どもにちょうどの支援は見過ごされてしまうことがある。
二番目の支援は、子どもをめぐる学校・家庭・地域を支援すること。
先生達へのコンサルテーションによる支援もある。
うまくいかないでへこんでいる先生に「大丈夫です。
ここには社会的視点が必要だから、先生はここのところをやってください」ということで、先生が安心して子どもを支援することが出来る。
お母さんも孤立している。「不登校は自分のせいだ」と思っている。
そこでピアの関係の支え合いが大事だ。
小学校1年生のお子さんが不登校になるとお母さんはびっくりしてしまうが、小学校3年生のお母さんが「そういうこともある。そのうち行くようになるわよ」などと言うと、私が言うよりずっと安心する。
そういう場をつくることも支援として大事である。
不登校のお子さんがいると24時間子どもと向き合うのでキイーっとなってしまうけれど大丈夫ですよ、と伝えている。
また、支援者同士が対等であることが大事。
学校の先生もお母さんも児童館も家庭支援センターもみんな対等な立場で子どもを真ん中にして支援する体制を作らないと、子どもが安定・安心しない。
家庭訪問で大事なのは、お母さんを褒めちぎること。
「歌を歌うようになった」、とか「最近ひまになった、と言う」と聞くと、「チャンス!」と言って励ましている。
子どもと会えなくてもお母さんと会ってお母さんが機嫌良くなると、私が来ることを子どもが望むようになる。
お母さんの信頼を担保して子どもの信頼を得るということである。
三番目は子どもを取り巻く地域を作っていくということである。
予防的支援とかアウトリーチの支援ということ。
ないものを作っていくのもソーシャルワークだと思っている。
全体的に思うことは、かすり傷はいいけど、大きい傷は子どもに負わせたくない。
深く傷ついたケースは、回復にそうとう時間がかかる。
5 例えばの不登校支援システム
不登校支援連絡会が立川であった。
早い時期に子どもの不適応をキャッチする場がないと支援も始まらない。
それには担任の先生の感性が大きいと思う。
「なんか気になる」という段階でSSWrが配置されていると動ける。
学校に入っているワーカーはいろいろな動きが出来るのでかなりの情報を収集できる。
得た情報によって次の連絡会で見立てを報告する。
次の「レベル」というのは、例えば児童館で元気になれる子は児童館でいいのでは、と私は思う。
また早い時期だと子どもは学校に来られる。
教室は無理でも別室登校はできるという子どもがいるので、学校の中に居場所を作るというのも大事な役割だと思っている。
このレベルは子どもの変化によって動く。
個人レベルから、地域レベル、学校レベルになっていくことは往々にしてある。
それに必要なのは大人たちのネットワークであり、子どもの状態を把握しているかということになるだろう。
6 事例検討
ある不登校の事例について、グループに分かれて、気になるところ(プラス面、マイナス面)に線を引き、支援の方法を話し合った。
話し合いの内容発表
①グループ:学校と、役所、地域、子ども家庭センターや児相、児童館がつながって、情報収集できると先の手立てが考えられる。場合によっては関係者を集めて会議をしていくことが必要なのではないか。その核になるのがSSWrだろう。
②グループ:事例のSWrがSSWrではなく、地域の民政児童委員から相談されたということなので、中学校につなげて情報収集を行うところから始める。家庭・本人の状況を知るには、きょうだいが行っている小学校・高校とつながっていければいいのではないか。
③グループ:子どもの見守りは民生委員に続けてやってもらって、担任の先生、関係する方々につながって情報収集をする。
<竹村>;
話し合って、自分が気づかなかった点があるということに気づけば、この事例検討は成功だ。
それが協働・連携の必要性ということになろうかと思う。
SSWrであれば相当な情報収集はできる。
関係機関とも向こうからドアが開くような感じでつながれる。
SWrはそうはいかないが、SSWrを入れてください、ということは言える。
自治体では、校長の依頼があって初めて支援に結びつくという場合が多い。
SWrが校長に、SSWrを入れてください、と助言をすることが可能である。
安否確認は大事なので、まず児相が入るべきかもしれない。
または学校がもっている緊急連絡先に安否確認をする。
情報は足りないことが多いので、開いていそうな所から入る。
わからないところはやがて関係機関との連携で明らかになると思うが、とりあえず今どこが何をするのか、を考えていかないと、会議のための会議になってしまう。
やってみなければわからない。
大人が仲良くなって本気になると結構できるので、やるぞ、と決めて支援に係って欲しい。
特に学校の先生がたにお願いしたい。地域は、役に立てるなら頑張るという性質をもっているので、ぜひ活用していただけたらいいと思う。